あるばとろす廻転おべるたす

詩を書いてます。

補陀落浄土2020

星がひとつ落ちまして

世界はかなりざわついた

眼を閉じなくてもあの星影が

まだ瞬いているのに

あなたの置いていった指環

どうしたもんかと箱に入れ

星が落ちた日になくなったりしないかと

期待をこめて箱をあけてそっと閉じた

まだあった

誰かに選ばれようとしたって意味はないんだ

わたしが選んだのだから

そっと呟く補陀落浄土

あなたを見送ることもできないで

指環は手の中で光っている

そっと呟く補陀落浄土

ざわめく世界に消えていく

永遠を溶かした琥珀色の夕焼けに君がついた嘘が輝いている

朝になると透けて見えなくなるけど夕方になればまた光る

変わらずにあるものが私にだってあると思っていた

ヴァイオリニストが同情する旋律の中に頑なに張り詰めた夜、苦悩が嘆いている

選んだ結果だ

誰かのせいにはしない

虎が踊る

捕える父の手

輝く嘘

それが私だ

燃えて消えろ太陽に呑まれて

ヴァイオリニスト

君の心に棲む音楽が

君を巣食う鬼になる

それは君の心を食い破って

誰かを襲う

そんな夢ばかり見る

これは執着

血が君を縛り

血が君を音楽に向かわせ

君が血を求めてはいなくても

一体いつになったら君は解放される

音楽の完成?

君が壊れる方が先?

君の心に棲む音楽

それは君の執着

心を食い破られても

君の血が音楽を求める

君の血は音楽と執着でできていて

君は音楽を奏でるときにだけ解放されている

君が生きているということ

それは音楽を奏でるということ

それを聴いた誰かの心をとらえて刻まれるということ

僕はそれを願ってやまない

空白を埋める

僕の中のからっぽ

僕はからっぽ

いままで食べたもの読んだもの

たくさん詰めて濾したはずなのに

またからっぽになってる

僕の中のからっぽ

僕はからっぽ

生まれたときからある空白

コキュートスに引きずり込むような瞳で

埋められないものでそのまま

愛するしかないのに

何かになるんじゃないかと

いつかはそこから何かが生まれるんじゃないかと

富と名声がうまれる泉かなにかと勘違いしてる

ただの虚空

僕の中のからっぽ

僕はからっぽ

涙が落ちる音

誰かに書いてもらった手紙の下書きを

さっき燃えていたアンタレスのめだまの中に落としてしまった

持っていたくなくて

哀切をもって響いたオーボエ

愛していると呟いた男が

抱いていた白いカラーの花束

こだましている

流れ星が通る音

ヴァイオリンのE弦を滑る

弓と涙が落ちるときのそれに似ていた

好きな本の好きなところだけ読んだって

いつかは続きを求める

そういうものだと君は笑った

自由落下

人生は落下だ

人間に自由意思があると信じている君も

おそらく落下している

まばたきの速度で

趣味 恋 生業 家事 庭の剪定

選びとって捨てる

吸収するもいつか排出される

残るのは記憶と言葉

巡礼をするために生まれたよう

いつかのだれかの記憶をたよりに

どこかにたどり着かなくてはならない使命に

世を過ごす

暇もなく落下している